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2006年7月14日 (金)

掌編:『超!』

 超!

 サポートセンターに電話があったのが十時二分、十時四十八分ユーザー宅着、迅速確実真心が俺達のモットーだ。十五歳、女性、整った青白い顔と黒目がちな瞳が不安げに俺を見上げる。
「あ、あの、私どうなんですか?」
「あぁ、パルスが無いですね。正確な時刻は保健課に任せますが、御臨終です」
「えっ、そんな! でも、私まだ……」
 端末で彼女の補助脳にアクセスし、自壊させた。
「新庄、センターに連絡。ユーザーの死亡を確認、特例法通り告知の後、端末より補助脳停止コード入力、心停止時刻は十時五十三分」
「はい……送りました。はぁ、僕らの担当だけでも今月三件目ですね」
「だなぁ、ユーザーも御気の毒に」
 俺は、目と口をを開いたまま固まった御遺体に慈悲深い視線を送る。
「亡くなってからも補助脳なんぞに身体を乗っ取られるとはな」
「本当ですよ。死者に対する冒涜です。うかばれませんね」
「だなぁ」

 白に青のストライプ、ひらがなのメーカー名が書かれた社用ワゴンに揺られ、支社に帰る。ハンドルは入社半年の新庄の受持ちだ。数週間前から疲れのためか酷く眠く、だるい。こういう時は新人さまさまだ。
「腹減ったぁ。今日の腹具合はチャーシュー麺チャーハンセットかな」
「じゃ、僕は、八宝菜定食で」
「お、八宝菜もいいね……」

 ウチの会社は義体、義臓等のデヴァイスメーカーだ。このところ補助脳関連製品にリコールが発生している。ユーザーの生体脳が停止すると同時に自壊するはずの補助脳が、なぜか機能し続ける。こんな事例が数年前からぽつぽつあった。それもこの数ヶ月で件数は急激に増え、ウチだけではなく他メーカーも対応に追われている。
「やっぱり、うまい話ってないもんなんですね」
「うまい話? 何、オマエ変なのに引っかかったの?」
「はい? ……いえ、詐欺とかじゃなくてデヴァイスですよ」

 満車の立て看板と警備員がいるパチンコ店を横目に、「それが?」と返す。
「ほら、僕らの世代って試験とかあったじゃないですか?」
「へぇ、お前も試験受けたクチ? そういうの無くなってケッコウじゃない?」

「僕の次くらいからはそうです」
 柴犬もいいなぁ、と散歩姿を追って「それで?」と促す。
「デヴァイスって性能も上がって、しかも安くなってるじゃないですか。最近じゃ五歳児でもデヴァイス率四割って言いますし」
「新庄さ、それ言葉が変だろ。〝デヴァイス率〟じゃなくて〝デヴァイス組み込み率〟だ」
「そうですね。……いや、そうじゃなくて。ん、そうなんですけど、それはどうでもよくて」

 ひらひらと手を振り、
「はいはい、わかった。わかったから続けて」
「で、ですね、お金があれば勉強も運動もしなくていいって事でしょ? これってどうなんですか? ……デヴァイスメーカーの従業員してる僕が言うのも変ですけど」
「そりゃ、正論だけどね。金があればOKってのは昔からそうだろ? 現に俺達だって金のために走ってんじゃん。言い換えれば、どんな手段でも稼げば何でも手にはいるし、何でもできる。金の心配だけでしてりゃいいんだから、楽っちゃ楽さ。TVに出てたどっかの有識者さんも〝金イコール能力の構図はシンプルで社会をわかりよくした〟って言ってたぞ」

 新庄のかなり不満げな顔を確認し、してやったり、と俺は暫し悦に浸った。ワゴンが支社に着いたのはそれからほどなくだ。

「木島さん、新庄さん、お帰りなさい」
「うぃっす、ミサキちゃん」
「江守さん、ただいま」

 オフィスに入って手前の机、江守岬嬢にこたえると俺も新庄もスティールの机についた。
「さっき、本社から補助脳リコールの調査結果が来たぞ」
 と、机を挟んだ向こうから同期の野田、それに続いて向かって左の端に座る平沢係長が、
「そそ。それよ、もうね、ビックリなんだよ。新庄君も木島君も聞いてよ」
 適当に相づちだけうっておく。
「もうね! もう、超ビックリなんだ、これが」
「結果ってどんなです?」
「なんと、原因は〝補助脳の自我〟だってさ。こんなのがねぇ、〝自我〟だって。これなんて半月分のお給料で買えるヤツよ?」

 ウチの型遅れの製品を手にした係長は興奮気味だ。
「それって……高性能化によるものなんでしょうか?」
 新庄が言わなくてもいい事を言う。話半分に聞き流しておけばいいのにと思ったが口には出さない。
「そそ、そうなのよ。何てぇか、スゴイでしょ? ついに機械が自我を持ったって話なんだわ」
 アホラシイ、これも思うだけでやはり声には出さない。
 新庄と係長はその後も数分ほどSFな会話で盛り上がっていた。
「おぅ、忘れてた。そういや、木島。そこの棚のそれ、この前の健康診断結果。一応見とけよ、保健課から電話もあったから」
「保健課? 〝血中疲労物質過多〟とか言われんのかね」
 だるい身体を持ち上げるとB4の白い封筒を手に取った。ハサミを使うのも邪魔なので手で口をちぎる。
 デスクでぱらぱらと眺め、固まった。
 胃液がこみ上げてくる。口に手を当てたが、指の隙間から溢れた。
「木島? 木島! お前どうした! 大丈夫か?」
 皆が俺の周りに集まる。誰かが持ってきた青いプラバケツにあけた。
 バタバタと慌しいなか、俺はハッと気がつき健康診断結果の書類を隠そうとした。しかし、
「もしかして、悪い病気でもあったの?」
 係長がそれを手にした。「ふむふむ」という声はすぐに途切れる。見なくてもわかる。皆、係長の言葉を待っていた。
「木島君……君、死んでたの?」
 場が凍った。
「って、事はあれ? 今の木島君は補助脳ってわけ? スゴイよ! 超スゴイ! 補助脳ってなかなかやるね。そうか、これが電子人間か。そうなんだ……」
 他の誰とも違う理由で係長の声はうわずっていた。そして、続ける。
「そそ! 木島君は確かウチの製品使ってたよね? もしかしてこれ? 木島君の世代だとこれだよね、たぶん。スゴイな、これってこんなにスゴイんだねぇ」
 わざわざ戻って、さっきの補助脳を持ってきて俺に見せる。
「じゃ、仕事しますか」
 いつの間にか新庄の手には制御端末があった。
「お前。お前、何する気だよ?」
 袖で口を拭った。
「先輩、いや違うか。〝先輩の補助脳さん〟、先輩は御臨終です。ですから、特例法により停止コードを入力するんですよ」
「やっ、やめろ! やめ、てください」
「無理ですね。〝法律〟ですから。……先輩、ほらね。お金ではどうにもならない事ってあるみたいですよ?」

 人間……否、俺は人間ではないらしいが、どうにもならないとわかると案外開き直れるようだ。
「はっはっ! 新庄、やっぱお前なんにもわかってねぇよ。法律も金で買えるんだぜ」
 続く新庄の返事はヤツらしく正論だった。
「たとえそうでも、今の貴方は法律を買えない」
 新庄の指が端末に触れた瞬間、俺は。

 了










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