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2006年7月14日 (金)

おバカ掌編:『プチプチの漢』

 プチプチの漢

「兄貴ぃー、も、もう駄目だー!」
「許さん! プチプチ前逃亡はプチプチ法裁判で死刑だぞ!」
 俺とマサは深夜のバイト、陶磁器を箱詰めするお仕事中だ。今日は昼の作業が滞っていたので俺達は残業である。
 マサはすでに限界を超えていた。このプチプチ歴十数年の俺にはわかる。プチプチの魔力に耐えられないマサはかなり辛い状況にあるのだ。
「あ、兄貴……プチプチ、してもいいですか? も、もう、俺」
「いかん! 俺達は逃げる事もプチプチする事も許されんのだ。耐えろ」
 マサの額から汗が頬へと伝う。相当に苦しそうだ。指先もプルプルと振るえている。
「プ、プ、プチプチしたぁーい!」
 マサの絶叫が商品と木箱の並ぶ倉庫に響く。
 耐えかねてプチプチに伸びる手、俺はマサの手をはたいた。
「馬鹿野郎! お前もわかってるだろう。このプチプチはな、商品を護ってくれる大事な物なんだぞ。そんな神聖なプチプチにお前って奴は……俺はお前はもっと骨のある漢{おとこ}だと思っていたんだぜ」
「あ、兄貴、すまねぇ」
 マサから顔を背ける。だが、マサのジレンマは俺にもよくわかる。俺も伊達にプチプチ道を歩んできたわけではないのだから。「プチプチは神聖にして侵すべからず」プチプチ界に名を轟かせた偉人がかつて言った言葉だ。プチプチをプチプチしたい、という衝動、しかし、俺達〝プチプチの漢〟はプチプチをプチプチしてはいけないのだ。
 マサは膝を突き、木箱の前に座り込んでいた。
 マサは名門プチプチ高(中高一貫)、プチプチ大を首席で卒業したエリートプチプチマンだ。プチプチの荒波の中で鍛えられた一般プチプチマンの俺とは違う。実戦においてメンタルな部分の弱さが露呈してしまうのも無理はない。
 俺もプチプチ道に入った当初は日々が辛かった。それでも、プチプチ訓練校で教わった言葉を胸に耐え抜いてきたのだ。「プチプチは神聖にして侵すべからず」そう、俺はこの言葉で己の弱さと戦ってきた。プチプチをプチプチしたい! という腹の奥底からこみ上げて来る強い感情に何度流されそうになった事か……プチプチの道は永く険しい。それは終わり無き旅路、環状線のようなものなのだろう。
 俺はプチプチを愛している。愛しているが故にプチプチしたい。マサを見ていると俺も辛いのだ。わかってくれ、マサ。
 ぐったりと冷たいコンクリートの床に手を突くマサをもう一度見て、決心した。俺も〝プチプチの漢〟だ。仲間を救えないままでは情けない。ジャンパーのポケットを探り、俺はスッと十センチ角のプチプチを差し出した。
「あ、兄貴。これは?」
 見上げるマサの瞳に希望が見えた。
「お前が使え。それだけしかないが、少しはプチプチできるぜ」
「兄貴……ありがてぇ。でも、でも、俺もプチプチの漢だ。プチプチをプチプチするなんて、許されねぇよ」
「俺は何も見てねぇ。そこにプチプチがあるなんてしらねぇよ」
「ありがとう、兄貴」
 そう、マサに渡したプチプチは俺の禁断のプチプチだ。プチプチをプチプチする事を勧めた俺は……ただでは済まないだろう。だが、これが漢と言うものだ。仲間のためには自腹も斬る。苦しんでいる仲間は放ってはおけない。これで俺は……。
「兄貴、楽しい、楽しいよ。でも、俺、もうこれでプチプチ道から脚を洗わないといけないんだな」
 マサはぽろぽろと涙をこぼしながらプチプチをプチプチした。
「何言ってるんだ。俺は何も見てねぇって言っただろう。これからのプチプチ道はな、お前達の時代だ。俺はお前がプチプチをプチプチしているところなんて見ちゃいねぇんだ。元気でな。マサ……あばよ」
「兄気ぃ!」
 マサの叫びを背に受け、俺はプチプチ界から消えた。俺は呟いた。もちろん、マサには聞こえなかっただろう。それでもいい。
「プチプチ界を……頼んだぜ」
 俺は新たな世界へ旅立った。
 そして、もちろん「あ、兄貴、残りの仕事は全部俺がやるんですか?」というマサの言葉も俺には聞こえてはいなかった。

 了










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